10歳前から変形性膝関節症の兆候があると言うと、高齢者の加齢による疾患の代表「変形性膝関節症」にそぐわないように感じられると思いますが、私が小学生の交通安全ボランティアで毎朝子どもたちの歩き方をチェックしていると、入学した1年生の頃から6年生になるまで歩き方の癖が抜けない子が多くいます。つま先だけで歩く子もいれば、靴の外側だけが減るように歩く子、つま先が極端に内側か外側に向いている子もいます。運動の不得意な子なのかと思い聞いてみると意外に運動好きの子が多く、運動が苦手だから歩き方にも癖があるというわけではありません。面白いことに親子の歩き癖は似ていることが多くあります。
4人に1人の児童に偏平足があるとの統計がある現代では、その歩き癖は20歳代になっても30歳代になっても意識して直す努力をしなければ直りません。意識すれば何歳からでも直すことは可能です。( 動画で見る操体法 第3部「生活動作を見直す」)
先ほど「便利な豊かさという危うい時代」と表現した意味の一つに、現代を生きる私たちはフラットな道路、平らな運動場とバリアフリーで凸凹の無い生活をしていることもあげられます。現代的生活では歩行にも自転車にも車にも平らであることが欠かせない条件となっています。
しかし、その環境が私たちが生活の中でバランスを回復する機会も奪っています。平らな道ばかり歩いていては歩き癖が直るチャンスはありません。凸凹があったり段差を上り下りすることで私たちは足をどこに置くことで安定して歩けるかを考えます。無意識が意識に働きかける時間ができます。歩き方に気をつけなければ、たちまちに捻挫したり転んだりと痛みを伴う実感を体験することになります。
「便利で豊かな生活」は均質化された行動と意識を作ることにつながります。それが偏った方向であろうと無意識の固定観念は自分にとっての歩き方のバランスをつくります。そのことが生まれて歩き始めて高齢になるまで意識せずに続けて歩いていれば、偏った歩き方の癖が「変形性膝関節症」「変形性股関節症」「慢性足関節捻挫」などの原因となります。
特別なリハビリテーションの時間はいりません。生活の中での動作(立ち方・歩き方・座り方)を丁寧に意識する生活ができれば、あなたの10年先の体を守ることができます。
世界中をグローバルに均質化させられつつある、便利で豊かな時代を生きるという難しさは、深く意識した丁寧な生活をしなければ、無意識の行動や思考の偏りを気づくことなく自分自身の意思の決定を偏りのない全体の意識として受け入れてしまうことかもしれません。