操体法の概要

操体法は「運動療法」

操体法は「運動療法」です。全身の状態を診(み)つつ、各部位を適切に動かすことで不具合を治し、身体をバランスのとれた正しい状態に戻していきます。動かしながら診療しますので、「動診」とも言えます。

楽な方向に動かして治す

操体法の最大の特長は、「楽な方に動かす」ということです。筋肉の痛みや張りは、その部位だけの出来事ではなく、脳との情報のやりとりで決まります。同じ部位の痛みや張りが続くと、脳からの「緊張を続けなさい」という信号が止まらず、身体のバランスが崩れ、慢性化、ときに悪化します。その場合は、痛い方、張っている方ではなく、逆に、痛くない方、楽な方に動かします。そうすると、「緊張しなさい」という信号が止まり、もとの自然でニュートラルな状態を取り戻すことができます。

創始者は橋本敬三先生

操体法を始められたのは、橋本敬三先生(1897~1993/明治30年〜平成5年)です。私、佐藤竹栄も仙台市の赤門鍼灸柔整専門学校で学んでいた頃、仙台市内で橋本先生が開かれていた温古堂診療室にも通い、指導を受けました。橋本先生が遺してくださった操体法は誰もができる治療法であり、広く人々への遺産であるとも言えます。先生の監修・編著書には「からだの設計にミスはない」・「操体法写真解説集」(柏樹社)、「万病を治せる妙療法」・「誰にもわかる操体法の医学」(農山漁村文化協会)などありますから、ご興味のある方は、ぜひご一読ください。

操体法Q&A

1. 基本的なQ&A

操体法では、なぜ足から施術を始めるのですか?
足が身体の土台だからです。身体も建物と同じで、土台がしっかりしていないと、いくら上物(うわもの)に気を配っても、全体のバランスが保てません。なので、足から始め、順繰りに上へあげていきます。当サイト内の「動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法」の最初のパートを、ぜひご覧になってください。
強く押す指圧がよくない理由は何ですか?
強く押すと、筋肉の繊維を痛めてしまうからです。筋肉は細い繊維の集まりで、それが筋膜に包まれて、何々筋という太いまとまりになっています。強く押されると、その繊維がブツブツとつぶされて、内出血やシコリになってしまいます。ですから、強く押すのではなく、軽く押さえて揺らすように動かすことが、とても大切です。そうすれば、繊維を痛めずに、深いところの筋肉まで、ほぐしていくことができます。
治る症状と治らない症状がありますか? どう見極めるのですか?
打撲、捻挫などの外傷性の疾患や、生活習慣に起因する痛みやバランスの崩れには、操体法は効果があります。急性の症状、慢性の症状、どちらにも効きます。一方、内科的な症状では改善が見られません。消化器系、循環器系、泌尿器系などの疾患で痛みが出ることがありますが、そのような場合には、内科など専門医での検査、診療をおすすめしています。

 

2. 症状ごとのQ&A

日頃から頭痛、肩こりに悩まされています。改善策は?
つらいところだけを気にするのではなく、全身のバランスを整えることが大切です。足から操体法を始めて、体の歪みや偏りを取り除くことが基本です。また、日頃の身体の動かし方に癖があって頭痛や肩こりになる方も多いので、当サイト内の「動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す」を、ぜひご覧になってください。
膝の痛みがでやすいのですが、原因は?
膝だけの問題ではなく、歩き癖や座り癖が原因のことがほとんどです。高齢になったから膝が変形するのではありません。若いときから筋肉を使わない歩き方が習慣になっていると、関節の負担が増して、徐々に変形に至ります。足先から足首、膝、股関節、腹筋、背筋、腕、首と、全身の筋肉を使った正しい歩き方を日頃から意識してください。(動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す > III. 歩き方
寝つきが悪く、眠りも浅いので困っています。何か方法は?
寝つきが悪かったり眠りが浅い原因には、内科的なものもありますし、布団と体の相性もあります(動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す > V. 寝方)。また、寝るときに疲労感でリラックスできていないことが原因の方も多くみられます。まずは寝る前に、一人でしやすい操体法を試し(動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法)、軽くストレッチをし、腹式呼吸までしてみましょう。自律神経のバランスが良くなり、眠りのスイッチが入ります。
寝違いをすることが多いのですが、どうすれば?
ほとんどの方の場合、布団と体の相性がよくありません(動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す > V. 寝方)。値段の高い布団が自分に合っているとは限りません。寝違えた、と思ったらあわてずに、仰向けの操体法(動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法)を試してください。右足、左足、順にカカトからゆっくりと伸ばす運動を繰り返します。6割がた痛みが抜ければ、あとは自然に治ります。
小さいころから歩き癖があると言われ、捻挫しやすいのですが?
なぜ歩き癖がついたかを考えると、いまの私たちの暮らしはフラットなところばかりを歩くようになったからだと思います。ひと昔前の日本では、砂利道や舗装されていない道を下駄で歩いていました。そういう生活環境では、歩き癖が自然に矯正され、バランスのよい歩き方を取り戻すことができました。駅伝で何度も優勝しているチームのグラウンドには、上り下りのコースや、凸凹のある土のコースがあると聞きます。平らではないところを走ることで、癖のない、ケガをしにくいフォームが作られているのではないでしょうか。当サイト内「動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す > III. 歩き方」を、ぜひ参考になさってください。
近頃、O脚になってきたようで、気になるのですが?
下半身の筋力全体を使わない、アンバランスな歩き方が長年続くと、O脚の元になります。足先から腰まわりまで、すべての筋肉を動かす、正しい姿勢での歩き方を身につけてください。当サイト内「動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す > III. 歩き方」が参考になると思います。
猫背とよく言われるのですが、どうすれば?
座り方に癖のある方が、猫背になりやすいようです。尻の下にクッションを入れて、股関節よりも膝が下がるようにすることがポイントです。そうすると荷重が下肢に移動し、腰や背中が伸ばしやすくなり、口元も引き締まります。言い換えれば、尻の筋肉をちゃんと使った正しい座り方を実践することが、猫背の予防になります。
動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す > II. 座る動作と座り姿勢
妊娠中から腰が痛く、産後も続いているのですが?
重い物を持って歩くと、無意識の内につま先が外向きになり、ガニ股気味になります。妊娠中も、これと同じことが起こります。産後も子供を抱き、荷物を持って歩く。この姿勢が続くと、外側に荷重がかかって腰の落ちる「反り腰」が癖となり、腰痛の原因になります。つま先がまっすぐ前を向いて、ガニ股歩きにならないことがポイント。太ももや臀部、腰回りの筋肉も意識して、下半身の筋肉全体をバランスよく使うように心がけてください。
動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す
五十肩と診断されましたが、一向に治りません。操体法で治りますか?
五十肩は、癒着性関節包炎の症状で、関節内に石灰が沈着し、腕を動かせる範囲が極端に狭くなって、少しの動きで痛みが出ます。四十肩は、肩関節周囲炎の症状で、動かすことはできるが痛みがあり、腕が上がりにくい状態。ほかに、肩関節腱板損傷で肘が肩の高さ以上に上がらない、腱板断裂という症状もあります。

操体法で改善されるのは、四十肩、五十肩です。腱板断裂の場合、操体法はリハビリには役立ちますが、手術が必要な事例が多いです。

四十肩、五十肩で強い痛みがあれば、三角巾で固定し、安定させます。関節の炎症ですから、休ませないと治りません。してはいけないのは、腕を無理に上げる、振り上げるなど、痛みを我慢しての不適切なリハビリです。

頸背部のバランスが悪いことが多いので、まず足先から順に操体法で、全身のバランスを整えることが大切です。リハビリは、肩関節を引き上げる筋肉を動かしやすくすることが重要ですから、肩甲骨まわりを中心に根気よくやりましょう。相撲のテッポウの動きや、立ち姿勢での壁に向かった腕立て伏せなどが効果的です。

ぎっくり腰になってしまったらどうすればいいですか
まず、保冷剤などですぐに冷やし、安静にしましょう。横向きの楽な姿勢で15~30分冷やすだけで、痛みが軽くなります。その後、背中に枕を入れて上体を少し起こし、膝の裏にはクッションを入れて膝を曲げると、腰の力が抜けて楽な姿勢になります。その仰向けの姿勢で、操体法を始めましょう(動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法)。

うつ伏せの操体法もできるようならしますが、痛みが強ければ無理をせず、時間を置いてから仰向けの操体法を繰り返しましょう。

ぎっくり腰の痛みも、捻挫などと同じ関節の腫れですから、腫れが強いうちは松葉杖などで腰に負担をかけないことも大切です。

また、立ち方、座り方、歩き方、寝方、持ち方など、ご自分の日頃の動きを見直すことで、予防ができます。

むち打ち症の治療にも、効果はありますか?
うつ伏せの姿勢で、顔だけ左向き、右向きと変えたときに、左右の足の長さが変わる場合は、むち打ち症を疑います。操体法の基本に沿って、足先から順に上へと各部位を動かし、全身のバランスを整えてみてください。いちどきに良くならなくても、少しずつ改善されて、安定した状態に近づけることができます。
動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法
脳梗塞の後遺症にも、効果はありますか?
脳神経疾患のリハビリは専門外ですが、操体法を取り入れている理学療法士の方々は、良い効果を得られています。立ち歩きを主にしたリハビリよりも、四つん這いになって、前後左右斜めと体を揺らしながら進むハイハイ歩きのようなリハビリが効果的なようです。手足の拘縮も、痛い方ではなく、楽な方に動かすことで、痛みの少ないリハビリができます。

3. 子供とお年寄りについて

小さな子供にも、操体法は効果がありますか?
あります。赤ちゃんのおへその両脇をくすぐると、キャッキャッと手足を動かして喜びます。このときに、自然と楽な方に体を動かして、バランスを回復しているのです。3~4歳になったら、操体法の受け方、簡単な動かし方は理解できますので、ご家庭でも試してみてください(動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法)。
痛みを訴えていた子供が、病院で成長痛と言われましたが?
骨の成長と筋肉の成長の差が、成長痛の原因です。操体法で筋肉の緊張を取り除きましょう(動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法)。成長痛は、膝、脛(すね)、ふくらはぎに出ることが多い。足首を痛くない方向にグルグル回すなどすると、痛みは治まっていきます。もし動かして強い痛みが出るようなら、疲労性の骨折を疑いましょう。疲労性骨折は、腫れがないことも多く、風呂などで温めると痛みが強くなります。そのあたりを見極めてください。
母も祖母も腰が曲がっています。遺伝なのでしょうか?
遺伝とは思いません。長い間の生活環境、生活習慣の影響が大きいと思います。立ち方、座り方、歩き方などの基本的な生活動作を見直し、全身のバランスを正しく保つ暮らしを心がけることで、腰曲がりは予防できます。当サイト内の「動画で見る操体法 第3部 生活動作を見直す」を、ぜひご覧になってください。
母は90歳を過ぎていますが、操体法は効きますか?
高齢の方にも効果はあります。楽な姿勢で操体法を始めましょう。仰向けでは、首から背中に枕を入れて上体を少し起こし、膝の裏にもクッションを入れて膝を曲げます。うつ伏せでは、胸の下、足首の下にクッションを入れます。こうして楽な姿勢をつくってから、ゆっくりと、無理をせず、楽な範囲で動かしていきましょう。一度に長い時間をかけるのではなく、毎日少しずつ続けるのがよいと思います。
動画で見る操体法 第1部 家庭でできる操体法

4. スポーツ・トレーニングについて

中学生の子供が、部活のあと腰が痛いと言うのですが?
いちばん気をつけるべきなのは、腰を支点とした腹筋運動や背筋運動をしていないかです。腹筋や背筋の運動は、腰椎への負担が大きく、成長期の柔らかな脊椎にダメージを与えます。小中高生にはよくない。大学生でも避けているケースが多い。腰椎分離症になるリスクもあり、部活の指導者には安全管理が求められます。
ヨガやストレッチのレッスンの後、痛みの出ることが多いのですが、原因は?
無理な動きをしていませんか。自分の痛みの出る方向に頑張ってしまうと、それが痛みの強くなる原因になります。「楽なところは得意になって、痛いところは頑張らず、嫌だなと感じたらやめる」のが、ヨガ・ストレッチのポイントです。当サイト内の「動画で見る操体法 第2部 お目覚めストレッチ」を、ぜひ参考になさってください。
ケガをしたときは、温めた方がいいのか、冷やした方がいいのか?
基本的には、すぐに冷やします。初期の炎症をすぐに冷やして小さく抑えることで、治りが早くなります。保冷剤や氷のうで15~30分冷やすと、痛みも減っていきます。多く見られるのは、冬の作業中に腰を痛めた場合、寒さが原因と思って温める方が多いのですが、温めると炎症が広がり、悪化します。仕事中にどこかを痛めたときも、仕事が終わるまでそのまま頑張るのではなく、すぐに冷やすことが大切です。
どれくらい運動するのがちょうどよいのか、よく分からないのですが?
まずは時間、そして疲労感。時間は長くて30分。ウォーキングなら、ハァハァする手前くらいの心拍数で歩き、帰宅後すぐに次の仕事ができる程度が理想です。朝、昼、夜、10分ずつでもOK。30分で足りない方は、筋肉や内臓の疲労の蓄積を避けるため、時間を空けて運動することをおすすめします。
万歩計は、どれくらいを目安にするのがよいでしょうか?
万歩計は、単なる商品名ですから、何千歩とか何万歩とかにこだわる必要はありません。すなおに自分の身体と向き合って、歩いた歩数よりも、そのときの時間と疲労感を目安にしてください。