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第3部 生活動作を見直す

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プロローグ

日本では生活動作を所作と言い、正しい所作で動くことを作法と言います。作法は、動きを美しく見せるための表面的なものではなく、身体と道具を正しく使い、かつ守るための、合理的で無駄のない動き方です。それは、日本古来の武道の動きにも通じます。

日本的な美の感覚には、この所作が大きく関係しています。生活動作の基本は、日常生活における所作、すなわち、正しい立ち方、座り方、歩き方、物の持ち方、寝方です。

生活動作の所作を意識して見直すことが、今ある症状のリハビリになり、また予防にもなります。特別な筋力トレーニングの時間を作ることよりも、日頃の動きをちゃんと見直すことで、充分な筋力強化が出来ます。

I. 立ち上がり方と立ち姿勢

①立ち上がり方

椅子から、また床から立ち上がる動作は、一日に何度となく繰り返します。

駄目な動き方は、前かがみになって「よっこいしょ」と立ち上がってから腰を伸ばす動き方です。前かがみで立ち上がり体を伸ばすと、腰を中心に負担がかかります。そして体を伸ばしきる前に歩き始め、前かがみ(猫背)が普段の姿勢になっていきます。

椅子から立ち上がるときは、まず踵カカトを体に引いて、次に腿の前の筋肉を意識しながら、体を前に倒さず真直ぐ上に立ち上がります。腰関節の負担は減り、腿の前(大腿四頭筋)の筋力が使われるようになります。
床から立ち上がるときは、正座からまずつま先を立てて座り、次に左膝を上げ、左足先を進め、前後に足をずらします。その姿勢から背中を伸ばしたまま、真上に立ち上がります。

初めは筋力が弱く上手く立ち上がれないようなら、前かがみにならないように支えにつかまりながら立ち上がりましょう。

意識して立ち上がることで、筋力も戻り姿勢も良くなります。

②立ち姿勢

立ち姿勢はまず、骨盤にきれいに背骨が乗っている姿勢をつくります。肩幅より自分の足の横幅二足分を広げて立ちます。軽く膝を曲げ、腿の前に体重が乗っていることを確認しましょう。

この姿勢から中腰で前かがみになると、太ももの前に体重が乗り、腰から上半身は姿勢が楽になり、力が抜けてとても楽に仕事が出来ます。また左右に体を振りやすく、下半身の運動にもなりますので、足の浮腫みも出にくくなります。
台所で包丁など道具を持ったら、持ち手の側の足を少し引きます。柔道などの構えと同じです。包丁が真直ぐ後ろに引けて、腕・肩の動きが楽になります。

II. 座る動作と座り姿勢

①座る動作

座る動作は、立ち上がる動作の逆になります。

真直ぐに立った姿勢から前かがみにならないように、太もも前に力を入れてゆっくり座ります。そのように座ると、お尻の筋肉が座った後も張りがあり、骨盤から上半身を姿勢良く支えてくれます。肩のこらない楽な姿勢が保てます。姿勢が悪くなったら、背中を反って姿勢を直すより、真直ぐに立ち上がって、真直ぐに座り直しましょう。

床に座るときも、立ち上がる動作の逆になります。前かがみにならずに右足を少し引いて、背中は真直ぐにして、膝を曲げて腰を下げていきます。

太もも前の筋力(大腿四頭筋)を使って立ち座りするように意識しましょう。

②座り姿勢。椅子や床・畳での座り姿勢

パソコン作業など椅子に座る時間が長くなっている現代では、座位姿勢はとても大事な生活習慣です。背筋を伸ばしてきれいに長い時間座るには、座面の後ろ半分にクッションを入れて、股関節より膝が少し下がるようにします。

膝下に重さが逃げることで、腰を伸ばしやすくなります。

あぐらで座るときや横座りの際にも、お尻の下に厚めにクッションを入れて座ると、背筋を伸ばしやすくなります。

③座り姿勢。車の運転の際には

運転姿勢も体のバランスを崩す原因になります。長時間の運転で特に気をつけたいのが座り方です。

まず左足。ブレーキの左側のフットレストを踏みながら深く座り、シート位置を調整します。運転中もフットレストに足を置き、時々踏み込んでお尻の位置をシートの真ん中に直します。

右足のカカトは、アクセル側に置く習慣をつけましょう。街乗りで短い時間の運転が多い方は、ブレーキ側にカカトを置いて、外側につま先を開いてアクセルを踏んでいる方が多いようです。これは良い形ではありません。長距離運転でも、右足つま先を外向きで長く踏んでいると、腰・膝・股関節に負担がかかり、慢性炎症の原因になります。

III. 歩き方

意識してきれいに歩くと、身体のアンバランスがニュートラルな状態に戻ります。五歩六歩の室内歩行でも意識して歩くことで、リハビリや筋力強化につながります。歩き方のポイントをまとめましたので、①から順にステップアップしていってください。

初めから速さや歩幅を何センチ以上などと決めずに、まずはきれいに歩く姿勢を意識しましょう。

①踵から足を着く。

カカトから足を着くように意識すると自然につま先が上がりやすくなります。歩いていてつまずくことの予防にもなります。

②足の親指を思い出す

足の親指を思い出します。思い出す程度の意識で充分です。体重をかけすぎると、バランスが悪くなります。親指を思い出し、カカトからつま先へ繰り返し歩くと、つま先と膝頭が前向きになり、膝上の筋肉を使っている感じがわかります。

筋力を使った歩き方をすることで、足首・膝・股関節の負担が減り、X脚・O脚・足首の不安定性のリハビリになります。

つま先が上がり踵から踏み込むことで、フクロハギからモモ裏の筋肉がストレッチされ、背筋を伸ばしますので、歩く姿勢がおのずからきれいになります。

③肘を少し曲げ、肘を意識して腕を前後に振る

肘を少しだけ曲げて、肘を意識して前後に腕を振ります。肘を意識することで肩甲骨周りの動きが生まれ、上半身の運動量が増えます。また、腕の振りが大きくなると、自然と歩幅が広がってきます。

カカト、親指、肘と意識しながら歩くだけでも、だいぶ姿勢が良くなり、歩き方が改善されます。もう少し歩き方を見直していきましょう。

④左右の足の間を意識する

歩く時に歩幅では無く、左右の足の間を意識しましょう。モデルウォークの様に、足を交差させて歩いてはいけません。

道路の白線の幅は約12㎝です。白線の両端に足の内側が沿うくらいの足幅で歩くと安定感があり、重いバッグや荷物を持っても肩が揺れずに楽にきれいに歩けます。

妊婦さんも12㎝の幅を意識して歩くと、ガニ股で歩かずにスタイリッシュなウォーキングになり、腰痛が減ります。産後の骨盤の開きも予防できますので、妊娠中から始めましょう。

普段は5㎝程度のラインの両端に足裏が沿うように歩くときれいに歩けます。
かっこよく見せたいときは、1㎝2㎝の細いラインに沿うようにイメージして歩くと、スタイリッシュな感じが出せます。

ここまでの歩き方が出来るようになったら、おへそを意識して骨盤を左右にひねるようにすると、楽に歩幅が広くなります。

歩き方はバランスを回復する大事なチャンスです。短い距離の室内歩行でも、リハビリと予防になります。人は道具を使って生活する動物ですから、必ず動作に偏りが生まれます。歩行運動は、歩き方を意識することで左右対称の運動をつくり、体の各部位が連動する動作を回復させることが出来る、簡単で効率的な方法です。朝、短い時間でも散歩の時間をつくり、意識したウォーキングで体のバランスを回復し、有酸素運動で脳にセロトニンを運べば、元気に気分よく一日を過ごすことができます。

IV. 物の持ち方

不意に手を伸ばして何かを持ち上げると、腰や体のバランスを壊します。持ち上げる、下げる動作の基本は、膝を曲げ足から動き始めることです。立ち座りの動作と同じく、腿の前の筋力を意識出来るように、膝を曲げ腰を下ろしてから手を出しましょう。

立ち方や歩き方の基本姿勢が出来ていると、自然と持ち上げる動作や作業動作が、無理のない動きに変わってきます。

ギックリ腰

不意に意識しないで何かを持った時に、軽い物でも腰の関節が不安定な状態になり、上下の関節が少しずれる動きをつくり、支える靭帯に負担がかかり、炎症を起こす。ギックリ腰です。足首の捻挫と同じように、腰の関節の周りが炎症で腫れることで、より不安定になり、痛みが走り、力が入らず歩行困難となることもあります。

ギックリ腰に限らず、打撲捻挫など急性の痛みは、すぐに冷やしましょう。すぐに冷やすことで腫れを小さく抑え、治りが早くなります。ギックリ腰でも、松葉杖で腰の負担を減らすと、より治りが良くなります。

V. 寝方

西洋のベッドの文化と日本の布団の文化では、その寝方にそれぞれ違った傾向があります。

西洋の文化圏では、やわらかいベッドが好まれる傾向があるのに対して、日本では、柔らかすぎるベッドには違和感がある人が多いです。

体が沈み込む柔らかいベッドでは、背中から頭に大きな枕やクッションを入れ、体にフィットする姿勢を作って寝るのに対して、日本人は伝統的に、あらかじめ自分にあった布団を作り、あまり大きくない枕を頭に当ててまっすぐ仰向けで寝ることが一般的でした。

枕が合わないと悩む方が多いようですが、ベッドで寝ることも多くなり寝具も多様化する今日では、まず体と布団・マットレスとの相性を意識して直さないと、枕が合うことはありません。

値段が高い布団・マットレスだから体に合うとは限りませんし、夏と冬のシーツの厚さの違いでも微妙な違和感が出ます。寝返りが多く、目覚めたときに腰や首が痛くなることが多い方は、寝具が体に合っていない証拠です。

布団・マットレスが固いと、お尻と背中の間の腰の所にすき間ができます。膝裏にもすき間ができます。このすき間を支えるために背筋と膝裏が緊張し、枕が合わなくなります。

この場合には、フェースタオルを四つ折りにし、腰のすき間に入れてみましょう。ちょうどいい場所と厚さを見つけたら、シーツの下に入れます。膝下は、大きめのバスタオルを丸めてクッションにすると楽になります。

布団マットレスが柔らかく体が沈む場合は、お尻と背中が深く沈んで腰が反り、寝ている間中、腰の関節に負担がかかります。

この場合には、四つ折りのフェースタオルをお尻と背中肩甲骨あたりに入れてみましょう。ちょうど良い場所と厚さを見つけたら、シーツの下に入れます。季節によって微調整が必要ですが、寝ている時間はぐっすり、目覚めの時間もさわやかになります。

以上が生活動作の見直しのポイントです。

エピローグ

毎日の生活動作の積み重ねが、身体を歪めさせ、また回復させます。意識・無意識が心と体に働きかけるように、生活動作の習慣やクセも心と体に働きかけ、あなたの日々の暮らしを変えていきます。

毎朝目覚めた時から意識的に「調子が良いかもスイッチ」を入れ、散歩に出かけ、一日のコンディションを整え、正しい生活動作を繰り返すことが出来たら、特別な時間のトレーニングやリハビリはあまり必要の無いことになるかもしれません。毎日を元気に気分よく過ごすために、日頃の動きにもいままで以上に気を配ってみてください。

十年後のあなたの身体を守ってくれるのは、今日からのあなたです。「飽きずに、忘れずに、頑張り過ぎずに」続けてみることです。三日坊主も十回やれば三十日です。

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