食事のバランス

以前、マクロビオティックで高名な久司道夫先生とお話をする機会がありました。ボストンにマクロビオティックセンターを持ち「世界平和のためには、精神を安定させる食事こそが大事」と食事療法の指導に活躍なさり、多くの末期癌の方も訪れるほどに欧米でも高い評価を受けています。現在の、スローフードの流れのさきがけとなった方です。

「食事の基本は身土不二」。自分の暮らす地域を歩いて求められる食材が、食事の基本食でなければならないと言われたこと、「食事にはハレの食事とケの食事があります」と話されたことを思い出します。

「ハレ」の食事とはお祭りやお祝い事の食事、「ケ」の食事とは戦前の日本人の日常食。この「ケ」の食事を「スタンダード・ダイエット」として推奨なさっています。

思えば私たちの食生活は、世界中の食材を買い求めスーパーの店頭を埋め尽くすことから始まっているのですから、どんなに「うちは質素な食事よ」と言っても、毎日が「ハレ」の食事といえます。「身土不二」とはいかないまでも、飽食による成人病の増加を見れば、「ハレ」の食事と「ケ」の食事を意識することは、養生の基本となるでしょう。

養生食と治療食

糖尿病、腎臓・肝機能疾患、高血圧、高コレステロール、心臓病、肥満などなど、どれもこれも食事指導を受ける疾患が増えています。友達と話しをすれば病気の話しとなるのも歳のせいでしょうか。

江戸時代に、安藤昌益という町医者で哲学者がおりまして東北の八戸藩に住んでおりました。安藤昌益全集が出ておりますので詳細はお読みください。農業から宗教、病気、経済、政治に至るまで日常の事柄を論議したものを、門弟が全集にまとめた物ですが、封建社会の時代に、ここまでの内容を出版したことにビックリします。

この中で、病気について安藤昌益は「病気になることをあれこれ心配することは愚かで、病気にならない食生活を心がけることが大事。養生は健康なときにするもの」と書いてあります。江戸時代の人々も、食と病に悩んでいたわけです。

「養生は健康なときにするもの」とありますが、病気になったら「養生食」ではなく「治療食」を食べなさいということです。

食事指導を受けている方とお話しをすると、養生食と治療食をごっちゃにしている方を多く見受けます。特に初期症状の方というのではありません。食事指導を「出来れば守りたい目標」くらいに考えていると、根治治療は難しいでしょうし、検査に行く前日や一ヶ月まえからは酒を控えるなど、本末転倒です。

治療食は楽しみの少ない食事ですが、治療食を食べて元気になって養生食に移る。養生食に楽しみはありますが、治療食のときは楽しみを先に取って置きましょう。

「そんなこといっても病気の進むやつは進むし、元気なやつは元気だよ」と言う方もいますね。たしかに遺伝的な病気への耐性能力には、個人差が大きく「医者の言うことは聞かん」でも、糖尿病などで合併症の出ない方もいますが、「私は特別」と考えるのはいかがなものでしょう。

「養生」を「我慢すること節制すること」と考えれば辛いものとなりますが、「気持ちと体の折り合いをつけること」と考えれば楽しみ深いものです。

ひとたび世に放たれると、あふれかえる食材に囲まれ誘惑のメニューに惑わされ、僕の前頭葉は「食いたい、飲みたい」と喜びをあらわにしますが、ここはグッと気持ちをおさえて体がどの位飲みたくて食いたいのか確認しなければなりません。

それには、あれもこれもと注文せずに、ゆっくりと食事と時間を楽しむ。次の日の反省は役にたちません。これこそが養生の秘訣。後から反省をしない程度に、食事も、運動も、仕事も、遊びも、ほどほどに、ということでしょうね。

皆様ご自愛ください。