アンチ・フラット宣言

車社会が到来してから、急速に道路の舗装が進みました。僕の子どもの頃は、どこに行っても凸凹道。あの頃は「車の運転を長くすると胃下垂になる」って言われました。今は、凸凹道を探すのが大変。フラット・フラット・フラット。「散歩が楽でいいわ」と言いますが、こんな事実もあります。小学校の保健室白書によると、骨折部位の第一位は鼻骨です。

小学6年生の平均身長は男子145cm、女子147cm。体格が良くなっているのに、反射神経が落ちてきている。塾通いでの運動不足が心配される。などと書かれていたように記憶していますが、問題は運動不足よりも、暮らしやすさを求めてつくられた、フラットな生活環境だと僕は考えています。

歩き方はリハビリの基本と言いましたが、フラットな所ばかりを歩いていては、バランス感覚は発達しにくくなります。

「メカノレセプター」を覚えていますか。バランスを伝える感覚器官の総称をメカノレセプターと呼びますが、運動中に単調な情報が絶えず送られていては、同じ筋肉や関節の同じ部位の働きだけに負担がかかりセンサーの感度が上がってきません。また同じ部位の負担が増えることは、疲労性の炎症や、けがを起こしやすくします。

南房総には散策にちょうどいい里山がたくさん在ります。往復3時間から5時間くらいの里山散策は気軽で、秋から春にかけてよく出かけます。

でも不思議なんですね。平らに舗装された海岸線を2時間も散歩したら脚がいやになってきますが、勾配のある山歩きは、歩き始めこそ息が辛いところもありますが、だんだん楽しくなります。もちろん歩き方に気をつけて足の裏全体を着くように歩き、時々急勾配は這って登ったりします。

平坦な道と山道、この違いは何だろうと考えました。それは体に伝わる情報の量です。登りはじめは息が切れ、勾配、凸凹や登り下り、一歩一歩の地面の変化が足を通して体に伝わる。体は否応なく、バランスを保つために全身の筋肉に命令を発します。普段使わない筋肉までもが、「俺も働いているぞ」と主張し始めやっと息が楽になり鳥の声も聞こえるようになります。

山登りのこの感じわかりますか。歩くことのために全身の筋肉に命令が発せられる感覚です。この違いが、散歩と里山散策の違いです。

この頃、運動部の学生のリハビリには里山歩きを勧めます。機械を使ったパワートレーニングやフラットな競技場の運動だけでは、機能の低下した体全体のバランス能力を発達させることは難しいと考えています。

ぜひ皆さんも、身近なところで凸凹道を探し、ゆっくりと地面を踏んで散策してください。小学生の運動能力の低下は、フラットな便利さを求める私たちの社会環境への警鐘であると僕は考えています。