高齢になりシルバーカーと呼ばれる手押し車を押して歩く方を見かけます。スーパーマーケットでも買物カートを押して歩くと楽だなと感じた方も多いかと思います。
体重をハンドルに押しのせて歩くシルバーカーは、膝や腰の負担も減り楽です。けれども運動量を減らす原因にもなります。押して歩きますから体は前傾姿勢になります。前傾姿勢になると自然と膝を少し曲げて歩くようになります。腹筋や太ももの筋肉をしっかり使う歩き方ではありません。前かがみの姿勢が普段の歩き方として定着し、絵に描いたような高齢者ができあがります。
父が75歳の頃、少し足が弱り始めたと言うのでノルディックウォーキング用のポールをすすめました。元が人と変わったことをやることが嫌いではないらしく、二人でしばらく練習すると、ポールでしっかりと体を押し出すように、歩幅も広く歩けるようになりました。以来92歳で亡くなる半年前までは、2㎞のウォーキングを日課にしていました。あまりにしっかりと速足で歩いている様子を見た人が、何歳ですか?と聞かれて90歳と答えてビックリされるのが楽しみだと嬉しそうに言っていたことを思い出します。
ノルディックウォーキング用のポールでなくてもかまいません。T字の杖でも二本杖で歩くことで歩行が安定します。踵から親指~踵から親指と意識して足を踏み出すことで、膝が伸び、太ももの筋肉をしっかりと使うようになり、前屈みだった姿勢が自然と起き上がってきます。骨盤の上にきれいに背骨が立つようになると体全体の調子が良くなるように感じます。
シルバーカーに頼る前に二本杖に頼ってみませんか。
腰痛を訴え来院された92歳の女性が、だんだんと痛みも無くなると、相談があると言われます。「名古屋までひとりで行きたい。妹が生きている内に行きたい。ひとりで行けないなら行きたくない。行けるかな。」僕が住んでいる町から名古屋までは東京まで2時間、新幹線に乗りかえて1時間40分かかります。「15分歩けるようになったら息子さんに相談しましょう。」そこから2本杖でのリハビリが始まりました。成果は実り3ヶ月ほどで二本杖なら15分以上歩けるようになりました。僕は息子さんと相談し、JRのサービスを使い駅構内は車椅子で移動、車内は自分で移動できることを確認し、初回は東京までは息子さんも同行し名古屋に無事行かれ、二回目はひとりで全行程を行かれました。その後の来院も無くしばらく元気でおられました。
15分続けて歩けることはとても大事です。長く移動するには座っている体力が必要です。逆に言えば、15分続けて歩ければ日本の公共交通のサービスならどこへでも行けるということです。