河合隼雄先生の講演とフルート演奏を聴く機会がありました。三重県四日市のメリーゴーランドという子供の本屋に行ってきました。
この本屋が曲者でして、ビルの一階の右側に喫茶店、真ん中に子供の本屋、左側が子供グッズとカジュアルショップ、それが中でつながっていて本を選んで喫茶店で昼飯を食いながら読み飽きるとグッズコーナーをひやかし喫茶店に戻ろうかなあと本屋を通ると、また本を買ってしまうという怪奇的構造をしており、二階は文化教室、三階はスタジオホールと、なかなかスルドイねらいの古びた良いビルです。本屋にハマッタ! これはいかんと思ったころに、三階のホールで講演会がはじまり救われたのでした。
河合先生の講演は楽しく、後半のフルート演奏は会場から「上手くなったよ先生」と声がかかるほどに盛り上がりました。実は、河合先生がフルート奏者として再出発してから、ここで毎年講演会とフルート演奏をなさっているとのこと、聴くほうも女子大生の中に混じって年季が入っている方も多いわけです。
この日の講演のなかで『年齢を括弧にいれる』というお話しがありました。河合先生でもフルートの新しい楽曲に挑戦しようと思うと、息が続くかな指が動くかな覚えられるかなと年齢が気になるそうです。歳なんか気にせずに、というのも歳相応で考えてと思うとみっともない。そこで、カワイハヤオカッコ75サイカッコトジルと括弧で歳をくくって外して置いて、新しい楽曲に挑戦してみると案外これが出来るようになるんです。と話されその後の演奏会で早速最近マスターした楽曲を披露するのですから、河合先生演出が上手い。「ココロの止まり木」(朝日新聞社)で詳しく書かれておりますのでご参照ください。
講演の後、僕は、この『年齢を括弧にいれる』は誰にでも出来るのか考えておりましてもちろん誰にでも入れることは出来るはずですが出来ない人もいる。なにか『鍵』があるのではないか考えておりまして、五味太郎・串田和美・加藤登紀子など、知人で年齢を括弧にいれている素敵な人たちや、三浦敬三・森光子など今や高齢者の星とも言える人たちに何かの共通点がないかと考えておりましたらメリーゴーランドの店主ひげのおっさんこと増田喜昭さんに共通点を見い出したのです。
河合先生講演会の日、増田さんが「今年の夏は、ツアーを組んでスウェーデンに行こうと思っています」「費用は40万円で高いけど、車売ったら皆さん行けますよ」などととぼけたことを言っておりまして、スタッフは「エ! 本気」などとビックリしているのですがこのオッサンは本気で行こうと思っているわけです。
皆さんに増田さんをどう紹介したらわかりやすいかというと、去年はテニスのプレー中にアキレス腱を切ったのですが本人いたく不本意であったらしく復帰後にまずはテニスのセットを買い込み練習を始めようとギプスの取れないうちから決めているような性格です。子供の本屋なんか売れないよやっていけないよと言われれば意地になってもやり通す。偏屈かと思えば、案外素直で顔に似合わず「可愛いい」などともてそうなオジサンなのです。
この増田さんが持つ「素敵な人々」との共通点とは何か。それは、ファンタジーへのファインダーを持っていて、何時でも空間と時間を旅する能力があるということなんです。「エ!ほんと」と思うでしょ。もう少し説明が必要ですね。増田さん子供といるときは子供になっちゃう。子供に合わせてなんてレベルで付き合ってない、だから時々大人気ない。スウェーデンに行こうと思ったら心は先に飛んでいて向こうに在る素敵なハプニングに遭遇する準備を始めている。メリーゴーランドの建物にも増田ファンタジーマジックがかけられていて、喫茶店から本屋ブティック文化教室スタジオとウロウロしていると段々ファンタジーへのファインダーが見えてくる仕掛けが有るんです。
大人になった僕らは、ピーターパンのようにファンタジーの世界に暮らすことは出来ないのかもしれませんが、ふっと傍らにファンタジーに暮らしていた子どもの頃の自分がいて、ファンタジーの世界を案内してくれたり子どもの頃に持っていた無限の可能性の喜びを感じさせてくれたりすることがありませんか。それが、ファンタジーへのファインダーです。誰もが持っています。
「年齢を括弧にいれる」鍵は、「ファンタジーへのファインダー」ではないかと僕は考えています。みんなで、ファンタジーへのファインダーを探しませんか。宝物の鍵は案外近くにあって、見落としているのかも知れませんよ。