「知性は脳にあり理性は腸にある」

ジャン=アンリ・ファーブルはファーブル昆虫記の中で、ほとんどの昆虫たちが親にまったく育てられなくても卵から幼虫となると自然の営みとして食べものにありつき脱皮を重ね蛹となり、成虫になり食べものを変え、また卵を生むための最適な場所をつくり産卵することの不思議を語っています。昆虫の一生は学習ではなく自然の営みとしてオートマチックに進んでいきます。あの小さな脳にそれだけの情報が蓄えられているとは信じがたいと語っています。
今では成長の過程で出されるホルモンによって行動が支配されていると考えられていますが成長の過程でホルモンを変化させる場所はどこかというとそれは腸・消化器系であると推測されます。原始の生命には脳はなく腸がすべての行動を支配しています。昆虫も人間も腸の神経細胞と脳の神経細胞は同じであり腸と脳は同じホルモンをつくることが知られています。つまり昆虫の生命の営みは腸からのホルモンに影響を受けて巣をつくり食べものを選び生殖活動し排卵することを繰り返していると言えます。それが昆虫の理性です。昆虫の理性は個体または集団の遺伝子を継続し繁殖すること以外にありあせん。アリやハチなど社会性の昆虫は役割分担をつくり他の昆虫も利用し共生と寄生のバランスを保ちますが繁殖と遺伝子の継続がすべてです。
 人間社会の理性はだいぶ複雑です。繁殖を目的だけに社会性の集団をつくっていたのでは弱肉強食で最後には滅びを迎えます。よりよい社会性をつくることが人間の理性であると信じます。しかし個人としての理性はやはり昆虫と同じように腸(五臓六腑)に支配されるところが多いように考えられます。諺にも、断腸の思い はらわた煮えくりかえる 腹に据えかねる 腹が立つ 腹から笑う 腹の虫がおさまらない などなど気持ちと腸の具合をつなぎ合わせる言葉が多くあります。
 どんなに知性的な人でも腹痛には勝てません。より近しい人ほど機嫌の悪さが伝わってくるものです。腹痛などは急性的な症状ですから他人からもわかりやすい腸と気分をつなげる状態ですが、慢性の便秘や軟便などの症状を持っている人の腸と気分のつながりは他人からはわかりにくく本人も理解していないかもしれません。しかし腸と腸内細菌の活動が脳の働きに密接につながっていることはまぎれもない事実です。
 アメリカの少年院でバランスの取れた食事にするように改善したところ院内での暴力事件が減り落ち着いた生活をするようになったとマクロビオティックを提唱した久司道夫先生からお話を伺ったことを思い出します。
 私たち人類は肥大した前頭葉の支配によって自然に対し尊大な態度で生きていますが、個々の人間は食べることで生かされている自然の中の一部と考えれば「知性は脳にあり理性は腸にある」という考え方はどうですか。