人間型ロボットに出来ない「代償運動」

2050年にはロボット対人間のワールドカップを目指してなんて聞きますが、目下のところ人が出来てロボットに出来ないことは「代償運動」作用です。

「代償運動」は字のとおり代わりに動かす運動のこと。体のどこかが故障したら、たとえば、右膝がけがをして動かしにくくなっても体全体でバランスをとって走ったり、歩いたり、杖を使って移動したりすること。これが人はとっても上手です。

たくさんのモーターで関節を動かすロボットは、どんどん人に近づいた動き、認知と判断能力を増してきましたが、一個のモーターが故障したら全部がフリーズし動けなくなってしまいます。代償運動は得意ではありません。しかし、人が怪我をして意識的にする代償運動は怪我が治ればしなくなりますが、痛いところ痛みやすいところをかばって動作に出てくる無意識的な代償運動は、本人にはわからないことが多く、癖として残ること多くあります。

たとえば歩き方。歩き方のくせはあんがい本人が意識していないことが多く、歩き方で、「腰痛いんですか?」と聞かれたりします。ほか証明写真を撮る時も「ちょっと頭右に傾けて、もうちょっと……。」などと言われたことはありませんか。

どこか筋肉の緊張のバランスがとれないと、肩が下がったり首をかしげたりしてバランスをとろうとして歩き方や座り方にもくせが出てきます。

無意識の代償運動は、体の機能的な不具合を、うまく動いているように脳をだます運動です。本人はうまく動いていると思っているが体には微妙な負担の片寄りがあります。この感覚の差が「どうして私、腰が痛くなりやすいんでしょうか」という患者さんの症状に出てきます。

たとえば。

「何か腰を痛めたことが有りましたか?」

「いえ別に」

「どんなお仕事なさってますか?」「調理師さん。立ち仕事ですね。立ち方に気をつけていますか?」

「調理台が低いんで、立っていると前かがみになります。夕方から膝も痛みます」

「うつ伏せでバランスを診ましょう。足の長さに差がありますね。背中のこちら側に張りが強いですね。こちらの足をのばして。これで足の長さが一緒くらいです」

「こんなに違うんですか」

本人は無意識のうちに、痛みをかばって、歩き方や立ち方に代償運動をしていくと、全体の筋肉の緊張がバランスをくずし、関節の負担を増していく。あるところまでは、体が自然にバランスを回復しようとしますが、毎日同じ負担がかかると不自然な姿勢で負担を軽くしようとします。

この方の場合は、調理台の上のまな板を少し高くすることで腰・膝の痛みがでにくくなりました。代償運動は人がロボットに負けない優れた能力ですが、それによって出てくる慢性的な疾患・痛みも多いことを見逃してはいけません。