成長期の運動

骨格が出来上がる歳ぐらいまで、成長期の運動を考えます。

生まれてすぐ「天上天下唯我独尊」などと言う子供はいないわけで、首がすわって、寝返りをうって、ハイハイをしてと、順番をふんでみんな大きくなります。

お母さんのお腹の中では、無重力のように自由に動いていた体が、誕生の瞬間から重力というとてつもなく大きな力に押さえつけられて体の自由がきかなくなり、赤ちゃんにとって未知の体験が始まるわけです。重力に逆らって手足を動かし、立ち上がり、歩く、走る、跳ねる、自転車に乗る。どんどんどんどん色々なことが出来るようになります。脳が行動の学習と体験の蓄積を始めるわけです。

もちろん、言葉も同じように聞いたこと話したことを、感情の喜怒哀楽も脳は学習と体験として蓄積し次に出くわした場面に役立てようとします。赤ちゃんから幼児になるまでのすべての体験は、親や大人の保護が必要です。保護を受けるということは行動だけでなく周りから受ける言葉や感情も脳の学習と体験の蓄積に深く関わるということです。

脳の発達には褒められることがとても大事です。赤ちゃんがハイハイしただけで「スゴイデスネ、リッパデスネ」と皆さん無条件に褒めます。赤ちゃんは、言葉がわからなくても感情を理解します。褒められているな、と感じるからどんどん動こうとします。

行動した体験の蓄積には、小脳が深く関わります。小脳は、考える脳というよりは、上手くいった行動を、例えば、自転車にバランスよく乗れた時の、体の動きなどを記憶して、必要なときに引っ張り出せるように蓄積する働きをします。一方に大脳の運動野といわれる学習領域があり、自転車に乗ろう、足を動かそう、バランスを取ろうと各部に行動をおこす命令を、ここから発します。

しかし行動の学習と体験の蓄積は、小脳と大脳の運動野にとどまらず、学習と体験のときに一緒に受ける感情や言葉・イメージが大脳の連合野を介して、次の学習や行動の意欲に影響を与えます。

「上手くいった」「褒められた」「楽しかった」行動と感情は、共通の結びつきで脳の別々の場所に蓄積され、必要なときに行動と感情が一緒に取り出されます。上手くいって褒められ、楽しければ、次の行動への意欲がわきます。「失敗した」「叱られた」「つまらなかった」次の行動に意欲がわきますか? 後から「○○ちゃんは、やれば出来るわ」などとなぐさめるより、一個一個のことを褒めてあげましょう。個々人の個性もありますが、座って学ぶ学習よりは体を動かして学ぶことが、脳の発達には欠かせないと言えます。

なかなか自転車に乗れない我が子に「すごいね、いまカッコヨカッタネ」とウソでも褒めてやると、その気になってがんばってくれます。上手くいったときに褒められると、その時の場所や言葉やイメージをひっくるめて、脳は記憶をすることが得意のようです。

大人でもお世辞で褒められてうれしいものです。幾つまで褒めることが多い子育てが出来るかが親の勝負所ではないでしょうか。特に親のウソに付き合ってくれる年齢は、褒められることの喜びを無意識にすり込む大事な時期です。

スポーツと年齢、体の発達

成長期の運動を考えるときに、年齢と体の発達を考えなければなりません。

小学校から中学に入る頃までは、ヒョロヒョロと伸びる時期。男子より女子が勝っている時期です。このころ膝や踵や脚全体に成長痛を訴えます。この時期の体の成長は、骨が縦に伸びる勢いが強く、骨の太さはあまりつきません。筋肉は骨に着きますから、骨が太くならないので筋肉の量も増えにくい時期です。体の成長は骨が先に伸びて、筋肉が後から伸びますから、筋肉の量や太さがつきにくいこの時期は成長痛がもっとも強く出ます。

ストレッチングを習慣づけ柔軟な体をつくってあげることでケガをしにくい体をつくります。この時期は、持久力をつけ、色々のスポーツを楽しんで経験させたいですね。運動の楽しみを知り、自分の能力を発見し、好きな競技を探す時期です。

中学の終わりから高校生の時期は、靴の大きさも変わらなくなり、少しずつ体格がたのもしくなってきます。だんだん生意気になり、親との距離を置き始め、大人っぽくなって反抗期と重なる時期です。骨格は縦の成長から、太さの成長を強くし始めます。骨が太くなるにつれて、筋肉もつきやすくなり、楽しむスポーツから、勝つためのスポーツへと意識も変わってきます。

しかし、骨格の成長は途中の段階にあり、充分な関節の形や大きさを造ったとはいえない時期です。この時期の運動で大事なことは、ケガを習慣化させないことです。無理なスケジュールを組んだり、過大な付加運動をしたり、充分なストレッチングをしなかったりは、ケガの習慣化をまねきます。

足首、膝の捻挫。腰痛や肩・肘の関節痛は習慣化しやすい外傷です。運動にケガは付き物だと考えるコーチや監督、親も多いのですが、ケガを習慣化させては子供の才能を伸ばすことは出来ません。監督や親は、ケガが多ければ練習の方法に無理がないか充分に疲労が回復しているかなど検討する責任があります。

中学生での腰痛があんがい多く診られます。無理な無謀な腹筋背筋運動での局部的な負荷トレーニングでの腰部椎間板ヘルニアや腰椎分離症です。現在では大学生にもさせない禁忌運動にしている足上げや上体起しの腹筋背筋運動を知識が無い顧問やコーチが生徒に強いることで発生する傷害事故です。

「子供が腰痛になるの」などと軽く見てはいけません。若年層ほど椎間板も腰椎も柔らかいため、ヘルニアの損傷も大きく出やすく腰椎分離症の好発年齢で自然治癒率も下がる傾向が見られます。

考えてみれば学校に通う子供たちは、一日6時間は机に座っています。座っているときの腰にかかる荷重は、体重の3倍と前に書きましたが、仕事で座っている大人より、自由を奪われて授業を聞いているのですから、授業中に腰痛を訴える子供の多いことにも納得いきます。運動だけでなく、生活環境も考えてあげたいです。

大学、社会人に向かう時期は、骨格も充分に発達し、運動に合わせた筋力を養う時期、運動能力を最大限高める時期です。このころまで、ケガの少なかった選手が意外と頭角を現す時期でもあります。自分にあった競技種目やポジションを見つけることで最大限の成果を期待できる時期だと考えます。

そう考えると、小学校から高校の間に肉体的に精神的に潰されていく選手がどれだけいるのか。巨人の上原投手は高校時代まではピッチャーをやらなかったそうです。「自分が潰されるのが、わかっていましたから」と雑誌で読んだ覚えがあります。早い時期に、自分の才能を知り育てることが出来た、数少ない例ではないでしょうか。

スポーツは、幾つになっても楽しめるものです。また分業化によって、体の能力を使いきれない現代人にとっては、欠かすことの出来ないものだと考えます。

「競技スポーツを引退したら、運動しない」なんて言わずに、「苦しくても、楽しい競技スポーツ」から、「幾つになっても、楽しめるスポーツ」にスムーズに移行出来れば楽しいし、その為に『成長期の運動』ということを、親はまじめに考える必要があります。